日本はインフルエンザの薬を使い過ぎ?

#26. 日本はインフルエンザの薬を使い過ぎ?

Q

46歳女性、インフルエンザの治療についてですが諸外国に比べて日本は飛びぬけてインフルエンザの治療薬の使用量が多いと聞きました。本当はそんなに使用しなくてもいいということでしょうか?

A

インフルエンザの薬

 実際日本と海外ではインフルエンザに対する治療状況はかなり異なります。日本では現在A型,B型に有効な内服のタミフル、吸入のリレンザ、イナビル、注射のラピアクタが抗インフルエンザ薬として保険認可されています。いずれもウイルスの増殖を抑えるのみで不活化する作用はないため、投与はなるべくウイルス量が少ない発症早期(48時間以内)が望ましいと言われています。ウイルスが少ないうちに免疫力が付いて自力で駆逐するというのが効果のメカニズムです。通常は1~2日の病期の短縮が認められますが、免疫力の低下している人では重症化したり長引いたりするリスクがありますので、薬の恩恵はより大きいと期待されます。

 

抗インフルエンザ薬の適応は

 米国疾病管理予防センター(CDC)では、 1)入院を必要とするような重症な人、2)65歳以上の人、5歳未満の小児、 3)妊婦、 4)気管支喘息、糖尿病、慢性の心臓病など持病がある人、5)エイズなどによって免疫力が落ちている人 には積極的投与を提唱していますが、それ以外は必須ではないとしています。

 

我国における抗インフルエンザ薬の現状

 2001年のタミフル発売後一時は日本が全世界の3/4を消費していると言われた時期もありました。これは自力で回復できる健常人にも処方されていたからで、その状況は今も変わっていません。絶対的な投与基準が未だ確立していない現状では、「治療効果」 と「 副作用やウイルスの耐性化の可能性」を天秤にかけて判断していくしかありません。

効果に関しては積極的投与でウイルスの蔓延を食い止め、結果的にリスクの高い人への感染も抑えているという可能性や、あるいは労働力の損失削減という経済的観点もあるでしょう。実際新型インフルエンザの際には米国に比べて死亡者が少なかったと報告されています。

 

抗インフルエンザ薬の副作用と耐性化

 タミフルの副作用で有名なのは10代の人での異常行動誘発の疑いです。ウイルスの耐性化とは、使い過ぎから効かないウイルスが広がってしまう現象で抗生剤の場合によく言われます。アマンタジンは耐性化率が高くなり使用されなくなりましたし、タミフルにも一部耐性化が報告されています。しかし、使用量の多い日本で耐性化率が諸外国と比べて高いとの報告は今のところ有りません。またウイルスの増殖が盛んな子供において耐性化の発現率が高いとの報告もあり、必ずしも薬剤投与のみが耐性化に関与するというわけでは無さそうです。さらに耐性化ウイルスが翌年には駆逐されてしまうケースもあり抗生物質の場合の細菌の耐性化とは異なる様です。

個人的には、ハイリスクの人への予防的投与も含めたより積極的な治療と、軽症の健常人への投与抑制が望ましいと考えています。

内科よもやま話一覧に戻る

このエントリーをはてなブックマークに追加

このページのトップへ