がん免疫療法とは?

#41. がん免疫療法とは?

Q

  先日京都大学の本庶佑先生がノーベル医学生理学賞を受賞された際のコメントで、がん免疫療法によって今世紀中にはがんの脅威も克服されるだろうとのことでした。この治療法はそんなに素晴らしいものなのでしょうか?

A

人体には免疫という防御システムが存在

 人体にはウイルスや細菌といった外敵から体を守るいわゆる免疫という防御システムが存在します。このシステムの一部は体内に発生したがんに対しても有効であることは以前から知られていました。例えば他人から提供を受けた骨髄移植においては、最終的にこの免疫の効果によって病気の細胞(白血病細胞等)を押さえ込んでいくと考えられています。

 

がん細胞は免疫の監視機構を巧妙にすり抜ける

 ところが実際に体内で暴れるがん細胞はこの免疫の監視機構をすり抜ける巧妙なテクニックを備えているのです。そのひとつが今回本庶先生の受賞対象となったPD-1という免疫チェックポイント機構なのです。免疫細胞には自身の働きを抑えるブレーキ役の分子がありPD-1もそのひとつなのですが、がん細胞はこれを使って免疫監視機構からの攻撃を回避して体内で増殖していくのです。

 

遂に本格的ながん免疫療法の登場

 がんの治療法にはこれまで外科的手術、抗がん剤等を使った化学療法、放射線療法が主でしたが、本庶先生のグループはPD-1分子の働きを妨げる抗体と呼ばれるたんぱく質を薬として開発し、遂に本格的ながん免疫療法の旗手となるオプジーボを世に送り出したのです。現在のところ皮膚がんである悪性黒色腫や肺がん、胃がん、腎臓がん、悪性リンパ腫の一部等7種のがんに対して保険適応となっていて、中には末期のがんでも著効するケースが報告されています。

 

年間治療費が3500万円の非常に高価な薬

 ただ発売当初一人当たりの年間治療費が3500万円という非常に高価な薬でした。しかし対象疾患の拡大と共に相次いで薬価が引き下げられていますがそれでも依然高価な薬です。今後は効果の期待できる患者の識別法、より効果を引き上げるための他の薬剤や治療法との組み合わせ等の研究も進んでいくものと期待されます。この領域は今や世界中の製薬会社が同様の薬剤の開発にしのぎを削っていますので、類似薬の登場も続くものと思われます。

 

新たに低分子の安価な薬が新規の免疫調整薬としても登場

 また今後の新たな展開として実は、PD-1をブロックするのではなく逆に活性化することにより、免疫反応を抑制する新たな薬の開発も既に進んでいるのです。しかも抗体のような大きな分子ではなく低分子の安価な薬が新たな免疫調整薬として登場するのも間近に迫っています。

 当面は免疫チェックポイント機構から目が離せない時代が続きそうです。

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