寒波による身体への影響と対処法

#43. 寒波による身体への影響と対処法

Q

 先日ニュースで北米が猛烈な寒波に見舞われていると聞きました。そもそも寒波は人体にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

A

医学的には偶発性低体温症

 寒波に遭遇した状況を医学的には偶発性低体温症と表現します。何らかの予期せぬアクシデントによって体温が奪われ、体温が異常に低下した状態をいいます。体内からの熱喪失が体内の熱産生を上回ったときに起こりうる病態とも言えます。医学的には、深部体温(体の中心の温度)が35℃未満の状態を低体温といいますが、軽度低体温(35~32℃)、中等度低体温(32~28℃)、高度低体温(28℃以下)に分類されます。

 

摂氏マイナス45度の風の中では5分で凍傷

 極寒の中では、生命維持に不可欠な器官に血流が優先されるため四肢末端や皮膚がダメージを受け易いです。摂氏マイナス45度の風の中では5分で凍傷を引き起こすおそれがあり、風があるとさらに急速に体温が奪われます。一般的には体重あたりの体表面積が大きい小児や皮下組織の少ない老人の場合には、同様の低温環境暴露でも低体温になりやすいことに注意が必要です。

 

低体温症の症状

 体温が下がっていくにつれてまず全身のふるえが生じ、皮膚が青白くなります。さらに体温が低下すると筋は硬直し、寒さを感じにくくなり、不機嫌になったり、眠気が生じその後、昏睡状態に陥ります。

 呼吸はあらい呼吸からゆっくりした呼吸へさらに進行すると呼吸停止へ、循環系では頻脈から徐脈最後に心停止へといずれも抑制的に働きます。30℃以下では心筋の被刺激性が著しく高まり心室細動という致死的な不整脈が生じて心停止を起こし易くなります。

 

人間は低体温には非常に脆弱な動物

 深部体温が30℃以下になると、自力では正常体温への復帰ができなくなると言われていますが、一方シマリスなどの動物は5℃近い低体温状態で冬眠状態が続いても、冬眠終了時には再び正常体温に回復しますので、人間は低体温には非常に脆弱な動物と言えるかも知れません。

 

低体温症の対処法

 危険な不整脈の回避という点で速やかに30 度以上へ復温することがポイントですが、復温速度は0.5~1 度/時間程度で上げていきます。 

 復温方法には一般的に体外的と体内的の2種類の能動的復温方法が用いられます。

 体外的復温法は電気毛布、温水循環型ブランケット、温水浸水などを使用して体表面を温めることによる一般的で簡便な復温方法です。

 体内復温法は40 ℃近くに加温した点滴を使用したり、加温した生理食塩水などを膀胱、胃、胸腔、腹腔の中に貯留させたり、あるいは透析・人工心肺などを使用して血液自体を直接加温したり、加温した酸素や空気で換気すること等により体内から復温する方法です。

 重症例では体外復温法のみでは拡張した末梢血管から低温な血液が深部に流入することで深部体温が更に低下してしまい危険な不整脈を誘発するリスクがあるため、体内復温法を併用することが望まれます。

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