睡眠薬を常用すると認知症になり易い?

#35. 睡眠薬を常用すると認知症になり易い?

Q

73歳の母が最近深夜に目が醒めて寝られず昼夜逆転してきたため、睡眠薬を飲み始めました。物忘れも進んできていますので認知症の引き金になりはしないかとても心配です。

A

人の体内時計は「視交叉上核(しこうさじょうかく)」

 人の体内時計は脳の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という部分にあると言われ、血圧やホルモンの分泌、自律神経の調節機能を果たしています。この昼夜のリズムを作っている体内時計の調節機能も加齢とともに低下し、認知症ではその働きが更に悪化し日常生活に悪影響を及ぼすことがあるのです。

 

日本は諸外国と比べて安易に眠剤が処方されている!?

 代表的な精神安定剤のデパス(一般名:エチゾラム)はベンゾジアゼピン系薬剤に分類され、睡眠障害改善薬の代表格であるマイスリー(一般名:ゾルピデム)は非ベンゾジアゼピン系薬剤に属しますが同じくベンゾジアゼピン系受容体に結合して作用するためベンゾジアゼピン系類似薬に分類されます。これらの薬剤は以前の睡眠薬と比して重篤な副作用も少なく使い勝手が良いため、精神科領域のみならず多くの科において睡眠薬、抗不安薬、筋弛緩薬などとして広く使われています。しかし、長期間続けて内服すると耐性や依存性などの弊害が報告されていて、特に効果が強いものほど、また半減期(作用時間)が短いものほど、内服期間が長いほど、服用量が多いほど依存性となり易い傾向があります。 従って諸外国の多くではこれらの薬の使用は2~4週間の短期間にとどめるよう厳しく規制されています。他方我国では継続投与期間の制限は無く、ベンゾジアゼピン系薬剤はアメリカの8倍、スペインの3倍、韓国の20倍も処方されているというデータもあるように、諸外国と比べて安易に処方されてきた経緯があります。

 

ベンゾジアゼピン系を投与されている高齢者は、約50%もアルツハイマー型認知症になりやすい

 そして認知症との関係では、大規模なケースコントロール研究の論文が2014年9月に英国の著明な医学雑誌BMJに発表されました。それによるとベンゾジアゼピン系を投与されている高齢者は、約50%もアルツハイマー型認知症になりやすく、その使用量が多くほど、また使用歴が長いほど、そして長時間作用の薬剤の方がよりリスクが高くなるというのです。従って耐性や依存性形成の観点に加えて、今後は認知症予防も考慮しながらこの種の薬剤の使用は短期間にとどめるべきで、実際累積暴露期間3か月以下の群ではアルツハイマー型認知症発症とは関連なしという結果も同じ論文の中で報告されています。

 

睡眠障害の原因には他の疾患が潜んでいる可能性あり

 また睡眠障害の原因には、不眠のほかに睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など他の疾患が潜んでいる可能性がありますので、安易に睡眠薬に頼るのではなく最初に正しい診断をすることがとても大切です。

 

睡眠薬だけでなく、生活環境全体の見直しも含めた総合的な対処が肝要

 そして認知症の昼夜逆転に対しては、昼寝を減らす、デイケアなどで日中の活動を高める、十分に太陽光を浴びて睡眠リズムを整える、就寝前に入浴等で体を温める等の生活療法が薦められています。 睡眠薬だけでなく、生活環境全体の見直しも含めた総合的な対処が肝要と考えられます。

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