胃癌のリスクを評価するABC検診とは?

#27. 胃癌のリスクを評価するABC検診とは?

Q

34歳女性、私の母親が2年前に早期胃癌で内視鏡手術を受けています。自分も胃トーシの検査は2回ほど受けたことがありますが、胃癌がとても心配です。胃癌のなりやすさを調べるようないい検査はありますか?

A

胃癌の原因は?

 高齢化の進行や他の動脈硬化性疾患による死亡率の低下等の影響もあり、現在日本人の死亡原因の第1位は癌で、2人に1人が癌にかかり、3人に1人が癌で亡くなる時代となっています。日本人の癌の罹患率で高いのは男性では胃癌、前立腺癌、肺癌、女性では乳癌、大腸癌、胃癌、全体では胃癌、大腸癌、肺癌となり、胃癌は依然として頻度の高い癌の代表格です。 癌の原因は一般的にはいくつかの癌関連遺伝子に傷がつくことと考えられていますが、さらにその傷つける原因としては以前から化学物質、放射線、ウイルス、喫煙等が考えられてきましたが、胃癌では20年ほど前にヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)が原因であることが解明されました。

 

胃癌発生のメカニズム

 ピロリ菌は幼少期に母親からの感染が主な感染ルートと考えられていて、ピロリ菌感染がない人は胃がんになることが少なく、ピロリ菌に感染すると慢性胃炎から萎縮性胃炎になり、さらに胃の粘膜の破壊が進行すると胃がんになる危険性が高くなってくることが知られています。ただ実際に胃癌になるのはピロリ菌感染者全体のうちの0.4%というごく一部の方と言われています。ピロリ菌の他には危険因子としては高濃度食塩の過剰摂取が、また予防因子としては緑黄色野菜の摂取が挙げられています。

 

ABC検診とは

 近年、血液中のピロリ菌の抗体価を測定する『ピロリ菌感染の有無の検査』と、胃の粘膜萎縮マーカーであるペプシノゲン値を測定する『胃炎の有無の検査』を組み合わせて胃癌のなりやすさ(リスク)を調べる胃癌リスク検診(ABC検診)が開発されました。ピロリ菌は中高年の日本人の7割に認められ、一旦感染すると特殊な除菌療法を行わない限り自然に消失することは無いため、かつての感染を示すピロリ菌の抗体価を調べる簡便な検査で現在の感染の有無が判定できます。またペプシノゲンは胃の消化酵素の前駆体で、ペプシノゲンⅠとペプシノゲンⅡに大別されます。委縮性胃炎ではⅠの低下とⅠ/Ⅱの比の低下が認められますのでこの両者を測定することで簡便に委縮性胃炎が診断出来ることになります。

 

ABC検診は1本の採血で可能

 またABC検診は簡単な1本の採血で可能であることも魅力的です。ABC検診の結果に応じて、ピロリ菌の除菌によりある程度胃癌が予防できたり、より効率的な胃癌検診を実施することが可能となります。従来の胃トーシ検診より効率的であり、また受検者が自分の胃癌危険度を自覚出来る非常にすぐれた検査ですが、残念ながらまだ開発されて数年であり、自費検査ということもあって本格的な普及はこれからです。早期に健診も含めて広く導入されることが望まれます。

 

 当科のHPの胃がんリスク検診(ABC検診)のご案内も是非ご参照ください。

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