胃癌の予防について

#13. 胃癌の予防について

Q

54歳女性、以前十二指腸潰瘍の治療をした際にピロリ菌の除菌療法も受けました。最近胃癌の多くにピロリ菌が関与していると聞きましたが、除菌を済ませた私の場合はもう胃癌の心配は無いと考えてよろしいのでしょうか?

A

胃癌の原因はヘリコバクター・ピロリ菌と判明

 近年ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌と略す)の感染は胃癌の原因となることが明らかとなり大変注目されています。実際ピロリ菌未感染者の胃癌リスクは感染者の20分の1以下と報告されています。感染経路は幼児期までの経口感染が主なものと考えられ、特に母親から子供への家族内感染の頻度が高いと推測されています。 ピロリ菌の除菌療法は通常胃潰瘍の薬と2種類の抗菌剤を一緒に7日間内服します。その結果約8割の方が除菌出来ますが、除菌に失敗した場合は薬を変更して二次除菌さらには三次除菌へと治療を進めていきます。今回のケースでは、まず除菌療法後に菌が本当に消失したか否かの確認が必要ですのでもし実施されていなければ検査が望まれます。 

 

 

ピロリ菌による慢性の萎縮性胃炎は胃癌の予備軍 

 ピロリ菌感染は一般に衛生環境の悪い発展途上国で感染率が高いのですが、先進国の中では、日本は例外的に高く人口の約50%、50歳代以上では約70%が陽性です。ピロリ菌感染者の多くは無症状ですが、一部に胃に炎症をきたして慢性的胃炎、さらに胃粘膜が萎縮する萎縮性胃炎へと病状の進展を来たす場合があります。そして食事、塩分、喫煙等の環境因子の影響も相まってやがて胃癌を発症すると考えられています。早期の炎症状態で除菌を実施すると胃癌の発生は認められませんが、萎縮性胃炎に傾いてしまうと、たとえ除菌が成功しても胃癌の発生を充分に予防することは出来ないようです。また萎縮性胃炎の段階が進むほど胃癌の発生率も高くなっていきます。従ってピロリ菌によりもたらされる萎縮性胃炎は胃癌の予備軍の状態と考えられ、ピロリ菌の除菌療法はこの予備軍に至る前の早期の炎症状態までに行うことが理想的と言えます。 

 

ABC検診は胃癌の発生リスクがわかる簡単な血液検査

 今回のケースも、除菌を行う前の胃の粘膜の状態(萎縮性胃炎の有無)によってその後の胃癌の発生リスクが大きく変わってくると考えられます。現在はまだ保険適応とはなっていませんが、胃酸の分泌に関係するペプシノーゲンを血液で測定する簡単な検査(ABC検診)で、客観的に萎縮性胃炎の有無とその程度を評価することが可能です。このような検査も積極的に活用されて有効な胃癌予防あるいは早期発見を心掛けていきたいものです。

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