進化したABC検診?

#32. 進化したABC検診?

Q

44歳女性、先日かかりつけの医院でABC検診を受けたところ最も胃がんになりにくいA群でしたが、念のための胃カメラ等の精密検査を勧められました。A群であれば毎年の胃がん検診は不要と聞きましたがどういうことでしょうか?

A

 ABC検診は1本の採血で胃がんのリスクを判定できるすぐれた検診

 本コーナーでも#27において1本の採血で胃がんのリスクを判定できるすぐれた検診としてABC検診をご紹介しました。 昨今、胃がんの原因の大部分はヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)という細菌に因ることが広く知られつつあります。そしてABC検診は血液中のピロリ菌の抗体価を測定する『ピロリ菌感染の有無の検査』と、胃の粘膜萎縮マーカーであるペプシノゲン値を測定する『胃炎の有無の検査』を組み合わせて胃がんのなりやすさ(リスク)ABCD4つの群に判定し、各々のリスクに応じて除菌治療も含めた予防と対策を可能とします。胃トーシの被爆や胃カメラの苦痛も無いため近年小学生にまで試験的に補助対象を広げて積極的に実施している自治体もでてきています。

 

ABC検診改訂版の提唱

 ところが検診の普及と共に、従来の判定基準ではA(ピロリ菌感染なし、萎縮性胃炎なし)と判定された中にピロリ菌に感染している方が10%ほど含まれていること、そしてその中の一部から胃がん患者が発生していることが分かってきました。ピロリ菌の判定はこれまで抗体価が10未満を陰性(ピロリ菌に罹ったことがない)と判定していましたが、この基準を3未満とより厳しくすることでA群にピロリ菌感染者が混入することを大幅に減らすことが可能となることが判明しました。

 

従来のABC検診のA群でピロリ菌の抗体価が3以上10未満の方は要注意

 従って近年、日本胃がん予知・診断・治療研究機構からも2016年度改訂版が発表され、その中でピロリ菌の抗体価が3以上10未満の±群を従来のA群からB群扱いとして胃カメラや他の検査法でのピロリ菌の存在診断を実施して陽性であれば除菌療法を行うことが勧められています。

 判定基準の移行期においては、今回のように従来の判定ではA群でもピロリ菌の抗体価によってはB群に準じた対応法を勧められることとなる訳です。どの分野でも完璧な検査というものは無くABC検診の場合も例外ではなく、上述の他にもいわゆる偽A群を排除するために、いくつかの詳細な判定基準が提案されています。

 

除菌後のE群は定期的な胃カメラを

 ちなみに過去にピロリ菌の除菌療法を受けた方はE群と判定され通常のABC分類の判定は出来ず、定期的な胃カメラ検査が必要です。さらにこの検査は胃癌に罹っているかどうかの診断検査ではない点にも注意が必要です。

 

今後は『胃がんリスク層別化検査』の呼称が提唱

 このような一部の例外があるとは言え、胃がんのリスクを簡便かつ有効に判定できる本検査の有用性に揺らぎはなく、より精度の高い利用法を確立して胃がん患者の低減につなげていきたいものです。なお今回の改訂版では、従来のいわゆるABC検診、胃がんリスク検診という呼称を『胃がんリスク層別化検査』と統一することが提唱されています。

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