血液でできる先進のがん検診とは?

#9. 血液でできる先進のがん検診とは?

Q

55歳の女性です。父親を癌で亡くし、悪性腫瘍の親戚も何人かいるため、自分も癌にかかるのではと考えると大変心配です。人間ドックや検診を毎年受けていても見つかった時には手遅れの場合もあると聞きます。新しい検査で早期に癌を見つけることの出来る何か良い検診は有りませんか?

A

人口の高齢化に伴い癌患者さんは年々増加

 国立がん研究センターの2009年の最新癌統計によると、人口の高齢化に伴い癌患者さんは年々増加し、2005年は30年前の約3倍に増加しています。生涯で癌にかかる確率(罹患率)は男性54%、女性41%で共に約2人に1人の割合です。年代別では男性では40歳以上では消化器系(胃、大腸、肝臓)が多く、70歳代以上では肺癌と前立腺癌が増加します。女性では乳房、子宮、卵巣の癌が多く、高齢では消化器系と肺癌が増加します。また人口の高齢化を補正しても罹患率は増加傾向にあり、男性では大腸、前立腺、食道の癌や悪性リンパ腫、女性では乳房、大腸、肺、卵巣の癌や悪性リンパ腫の増加が明らかです。

 

癌による死亡数も増加、ただし人口高齢化補正すると死亡率は低下傾向

 また癌による死亡数も2009年は約30年前の2.5倍に増加しており、男女とも60歳代から増加していきます。 診断・治療法の進歩により生涯で癌で死亡する確率は、男性26%(4人に1人)、女性16%(6人に1人)まで減少しています。死因のトップは男性では肺癌、女性では大腸癌ですが女性でも肺癌による死亡は増えています。年代別では前述の年代別の罹患率と同様の傾向です。 また癌患者全体の5年後の生存率は、男性では45.1%、女性では54.8%です。人口の高齢化を補正すると、癌の死亡率は低下傾向にありますが、胃癌、子宮癌、女性の食道癌が大きく減少しているのに対し、乳癌の増加が目に付きます。

 

マイクロアレイ癌スクリーニングは血液でできる高感度の優れた癌検診

 こうした中で従来の癌検診の限界を超える可能性のある先進的検査法も開発されつつあります。昨春にマスコミでも大きく取り上げられ、学術的にもその有用性が確認されたマイクロアレイ(※)癌スクリーニング法は当院でも実施可能な非常に有望な検査法です。わずか5mlの採血で癌の発生に敏感に反応する免疫細胞関連の約2600の遺伝子の発現パターンを網羅的に調べることで胃、大腸、膵臓、胆道の4臓器の癌の有無が一度に判定可能です。従来の癌の腫瘍マーカーの検査と比べて感度、精度共に優れた検査であり、将来は他の癌種も含めて広く実施されていく可能性が期待されています。ただ先進的な検査であるため自費診療の高価な検査となりますが、40歳以上の方で特に癌家系でご心配の方、複数回癌を患ってみえて再発や新たな癌の発症がご心配な方には、従来の癌検診と上手に組み合わせて実施されることをお勧めいたします。

 

※ マイクロアレイ: 数千から数万種類の遺伝子の発現パターンを短時間で網羅的に調べることができるシステムです。スライドガラス上にDNAプローブ(cDNAまたはオリゴヌクレオチド)をスポットします。細胞から抽出したRNAから合成したターゲット(cDNAあるいはcRNA)をハイブリダイズさせます。スライドガラス上のDNAプローブと蛍光標識したターゲットが結合したスポットを検出します。異なる試料から得られたデータを比較することで、遺伝子の発現変化を調べることができます

 

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