骨折や腰痛症が血液の病気? |
#3. 骨折や腰痛症が血液の病気?
Q |
73歳男性、以前から持病の腰痛症で近くの整形外科に通院し、湿布や痛み止めを処方していただいていました。2ヶ月ほど前から腰痛が悪化しましたが、たまたま受けた健康診断の血液検査で貧血と総タンパクの増加を指摘されました。かかりつけの整形外科の先生から、レントゲンで背骨が骨折してつぶれていて血液の病気も疑われるため、一度専門医を受診するように勧められました。特に転んだり、ぶつけたりもしていないのに骨折していると言われ納得できませんし、それが血液の病気からくるという事があるのでしょうか? |
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A |
病的骨折の原因には骨粗鬆症の他に癌の骨転移や多発性骨髄腫にも注意もともと御高齢の方は腰痛症や骨粗鬆症からの骨折を起こすケースが少なくありませんが、今回のように外部からの大きな力が加わらなくとも起こすような骨折を病的骨折と言います。この原因としては、骨粗鬆症の他に骨の腫瘍、癌の骨転移、化膿性骨髄炎(骨が細菌に感染した状態)、先天的な骨の病気、骨代謝に関連したホルモンの異常などがありますが、比較的高齢者に多い血液疾患で多発性骨髄腫も念頭に置く必要があります。
多発性骨髄腫は骨に多発性に腫瘍細胞の塊を形成し骨を破壊していくこの病気は免疫(細菌やウィルスや異物から身体を守るシステム)に関係するリンパ系の細胞のひとつである形質細胞が腫瘍化したものです。本来形質細胞はガンマグロブリンと呼ばれる免疫において重要な働きをするタンパクを産生する細胞ですが、腫瘍化したために無制限に単一なガンマグロブリンを産生し続けるために逆に正常な免疫力が低下すると共に、骨髄での血液細胞の産生が妨げられて、貧血や血小板減少もきたします。多くの場合この腫瘍化した細胞は骨髄に存在し、多発性骨髄腫という名前の如く、骨に多発性に腫瘍細胞の塊を形成すると共にその部分の骨を融かし破壊していきます。その結果局所的に骨がもろくなり、病的骨折の原因となります。多発性骨髄腫の多くの場合はこの過剰産生されているガンマグロブリンのタンパク(均一なタンパクであるためM-タンパクと呼ばれます)を確認することが診断の決め手になります。中には異常なガンマグロブリンの検出が困難な場合もありますので、尿、骨髄細胞、全身のレントゲン等の検査で総合的に診断していきます。
多発性骨髄腫の病態は多様であり慎重な対応が必要また多発性骨髄腫には様々なタイプが存在し、非常に軽度で進行の緩徐な場合からリンパ性白血病に近いような比較的進行の速い場合まであります。また多発性骨髄腫では過剰産生されているタンパクや血中のカルシウムの上昇のために腎障害や意識障害をきたしたり、あるいは増大した腫瘍が周囲の神経を圧迫して急速に麻痺等の神経障害を生じる場合もあり、こうした状況では迅速な対応が必要となります。 今回のケースでも従来からの腰痛症に多発性骨髄腫を合併してきた可能性も十分に考えられますので、単に腰痛症の悪化とは決めつけないで是非とも早急に血液専門医への受診をお勧めいたします。 |
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