物忘れの原因がてんかん?

#7. 物忘れの原因がてんかん?

Q

83歳の祖母ですが、元来健康体で認知症も軽く身の回りのことも自分でできていました。ところが最近急に物忘れがひどくなり、時々自分がしたことも覚えていません。総合病院の内科で脳のMRI等の精密検査も受けましたが加齢に伴う認知症と診断され内服も開始しましたが改善の兆しは有りません。最近家族がたまに深夜に四肢の軽い痙攣様のぴくつきを認めています。健康雑誌で物忘れの原因にてんかんが関係している場合が有ると知りましたが如何でしょうか?

A

てんかんは50歳代から増え始め、高齢になると発症率が急上昇

 大脳の神経細胞は規則正しいリズムでお互いに調和を保ちながら電気的に活動していますが、この穏やかなリズムを持った活動が突然崩れて、激しい電気的な乱れが生じることによって起きるのがてんかん発作です。てんかんと言えば、子どもの病気と思いがちですが、実は50歳代から増え始め、高齢になるに従って発症率が急上昇していきます。わが国では急速な高齢化に伴って65歳以上での発症は対人口比2~7%、患者数は50万人程度と推定されています。欧米諸国では70歳以上での発症率は10歳以下よりも高いと報告されています。

 

高齢者てんかんは若年者の場合とは病態が異なり軽い意識障害のことも 

 高齢者てんかんは若年者の場合とは病態が異なり、脳血管障害、頭部外傷、アルツハイマー病、脳腫瘍、薬剤性などを原因とする場合が多いと言われています。そもそもてんかんの発作は意識が保たれている軽微なものから意識を失って全身を硬直させガクガクとなる全身性けいれんをきたすものまで多彩です。特に高齢で発症するてんかんでは、時に全身けいれんを伴わないこともあり、さらに約1/3のケースでは脳波が正常であるため一層診断が難しいと専門家からも指摘されています。特に10~20秒程度意識がとぎれ短期間ボーッとするなど、周囲の人が気付きにくい軽い意識障害も高齢者のてんかんでは特徴的です。記憶がまだら状に抜け落ちたり言葉が出てこないなどの症状や、発作後のもうろうとした状態が数時間から数日間続くことがあるため、周囲からは『最近ぼけてしまった』と誤解されやすく、時に専門医も認知症と誤診してしまう場合もあります。そのため正確な診断に至るためには発作の状況を知る周囲の人と一緒に診察に行き、医師に正確に伝えることも重要です。てんかん発作と時にまぎらわしい疾患としては認知症、不整脈、脳血管障害、片頭痛、薬物中毒(睡眠薬など)、脳炎、発熱性疾患、代謝性脳症、失神、睡眠異常症、精神科疾患(うつ、解離性障害など)、  一過性全健忘等多くの疾患があります。

 

てんかんが疑われる場合は神経内科あるいは脳神経外科へ

 てんかんが疑われる場合は神経内科あるいは脳神経外科の専門の医師に相談されることが望ましいです。主な検査は脳波、CT、MRIや血液・尿等ですが特に脳波検査でてんかんに特有の異常波が確認できれば診断が確定します。治療は抗てんかん薬を適切に服用することで、約80%の患者で発作が消え、元に戻ると言われています。

 

思いもよらない症状が実はてんかんを見極めるポイントとなる場合も

 高齢者のてんかんの見極めのポイントは(1)良い時と悪い時の差が大きい、(2)記憶がまだら状に抜ける。(3)短時間、3~5分の意識のとぎれがある。(4)無意識な動作、反復(体をゆする、衣類をまさぐるなど)をする。(5)睡眠中の痙攣がある という点です。 意識がもうろうとする、目は開いているが、話し掛けても答えない、口をペチャペチャさせるなどの動作を繰り返す、「はい」「はい」など同じ単語を繰り返し発声するなど、一見てんかんとは思いもよらない症状にもてんかんを念頭において対処することは大切です。

内科よもやま話一覧に戻る

このエントリーをはてなブックマークに追加

このページのトップへ